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鬱るんです
躁鬱病のITエンジニア「はまー」が心と体の模様を記した雑記帳。 大手IT企業で心身ともにぼろぼろになり退職した後、ほそぼそと働いたり事業を立ち上げようとして頓挫したり、作業所に通ったり障害者雇用で働いたりと紆余曲折したが、今は無職な毎日。

日別アーカイブ:2001年9月6日

現在3:20。起きてきたところだが、不思議とすっきりしている。昨日、「目が覚めたら追加眠剤飲んじゃる!」と誓ったのが功を奏したのか、眠剤の種類を変えたのが効いたのか。とにかく、中途覚醒は2回だけである。はじめは22:30頃目が覚めて、追加眠剤もらわなくちゃ、と思った瞬間眠ってしまった。それだけすぐ寝入ってしまったので、割と深くは眠れていたんじゃないかな。1:00前に目が覚めたときは、速攻で眠剤もらいに行った。結果、3:10まで熟睡。トータルの睡眠時間は6:00と昨日より短いが、今の目覚めはとてもいい。やはり「深く眠る」ということが大切なようだ。これで薬に頼らずに済みたいのだが。

やはり早すぎたか、今日は喫煙室に誰もいない。一番乗りだ。薄明かりの下でこの日記を書いている私のそばに看護婦が来てこう言う。「そんなところでそんなことやってると目が悪くなりますよ。できれば眠れなくても部屋に戻って休んでおいてほしいんですけど」「でも、眠れないのにじっと横になっているの、つらいんですけど」「横になっているだけで、体は休まりますから」この看護婦は割とものわかりのいい人で、あまり反発するのもヤだったので、おとなしく部屋へ戻ることにした。が、布団を頭からすっぽりかぶってこれを書いている。暗くて手元が見えないが、いつのまにか、この小さなキーボードでもブラインドタッチができるようになっている。

5:00前にもう一度ホールに出ていくと、もうたくさんの人がコーヒーの準備をして待っている。どうやら今日は一人だけフライングしてしまったため、注意されたようだ。今日は採血・採尿があるが、5:30と言われてたので、トイレに行きたかったがずっと我慢していた。が、我慢しきれなくなって、5:15頃に「あの~、もう採尿いいですか?」と聞いたら「あ、いいですよ」ということで、やっとすっきり。採尿コップを手渡すと、「じゃ、ついでに採血やっちゃいましょうか」ということで血を抜かれる。昨日も書いたが、ここの看護婦は採血が下手だと聞いてたので覚悟していたが、今朝の担当の看護士Nさんはとても上手で、あっという間に終わった。「Nさんうまいですね~」「吸血鬼だから」「じゃあ女性専門ですね」などと冗談を飛ばす。私の血を見て「お、A型だね」「そんなことまでわかるんですか?」「わかるよ~、ベテランだから」ほんまかいな。後からみんなに聞いたら、「Nさんは採血一番うまいよ。他の看護婦さんがどうしてもうまくできないときは、Nさ~んって呼ぶそうだよ」ということらしい。今日はラッキーだった。

朝のひそひそ話でなぜか疑似?恋愛ごっこ。(あ、「疑似」と「ごっこ」は重複してるか)Mちゃんが、最近閉鎖病棟から移ってきたちょっとかっこいい青年K君に「ねえ、ラブレター書いてもいい?好きになっちゃった」といきなり告白。彼は「あ、いいっすよ」と軽く流してる。でもMちゃんは「でもKさんも好きなの。K君にふられたらKさんにラブレター書いていい?」とKさん本人に聞いている。Kさんも笑って「いいですよ、わたし安全牌で」と返している。まあ、冗談だとは思うが、Mちゃんは昨日の晩、急いで「ラブアディクション」(日本語に訳すと「恋愛依存症」なのかな?)について調べていた。ひょっとして、「マジ」が入っているかもしれない。後でHさんがMちゃんに注意する。「まじで惚れちゃだめだよ。この病院内では」

そう、この病院で看護婦や医者が気をつけていることは、「自殺を防ぐ」だけでなく「患者同士が恋愛関係に陥らないようにする」こともある。これは、自殺願望の患者同士がくっついたりすると、マジでやばいからである。過去にその関係の事件も起きたらしい。だから、患者を観察していてそういう関係になりそうな気配があると、二人の席を離したり、二人での散歩を許可しなかったりする。ここでは「プライバシー」はいろいろな面で制限される。この話は入院経験の豊富なHさんが教えてくれた。

今朝もみんなで散歩に行く。Mちゃんの姿が見えない。少ししてからHさんが来た。「Mちゃん来ないね」というと「K君と二人で海側の丘の方へ行ったみたいだよ」まぢまぢ?「それって、ちょっとやばいんじゃないですか?」私が聞くとHさんはこう答える。「あの二人は、俺が見る限りもう相当やばいよ。でも、あれくらいやばくなると、周りが何を言っても聞かないからね。なるようにしかならないんじゃない?」突き放したようなちょっと冷たい言葉だが、彼も私も自分の病気を治しに来ている。他の患者同士のもめ事や恋愛沙汰に下手に首を突っ込んで、看護婦の言う「巻き込まれる」状態になるのは避けたい。たとえ彼らが本気になろうとも、下手に首を突っ込むと、逆ギレされる可能性もあれば、またリスカに走られる可能性もある。彼女が調べていた「ラブアディクション」が頭をよぎる。彼女は、わざと別の依存症に自らを陥れることによって、今の不安から逃れようとしているのだろうか。

今日は木曜日なので体育館レク。またドッジボールとバレーボールだ。今日は看護実習生も2人加わっている。ドッジボールは2回試合して、2回とも負けてしまった。最初にじゃんけんでチーム分けしたのだが、今日のチーム分けはどう考えても力の差がありすぎた。それを考慮して、後半のバレーボールはドッジボールのチームから力の差を均衡にするように適当にメンバーを入れ替えた。これが功を奏して、3セットマッチで、3セット目までもつれ込む大接戦となった。1セット目はうちのチームが負けたが、2セット目はデュースにもちこみ、19-17でこちらの勝利。3セット目は15-13で惜しくも負けてしまった。が、すがすがしかった。スポーツにしろゲームにしろ、「力の差がだいたい同じレベル」でやるのがおもしろい。そうでないと、一方的な試合や展開になってしまい、どっちも楽しめない。

途中の休憩では体育館の外側の入り口のところにみんな座って、煙草を吸ったりお茶を飲んだり。ここからも海が一望できて眺めはとてもいい。だいぶ涼しくなって、気持ちよい風が吹いていく。Mちゃんもレクに参加していて、私と少し離れたところに座っている。が、腕に生々しい新しい傷跡がある。またやったのか?普通リスカをやる人は包帯などを巻いて隠すと聞くが、彼女は堂々とさらしている。逆にみんなに「私はこれをやるのよ」と見てほしいのだろうか。元リストカッターのTさんは以前Mちゃんにこう言った。「みんなに見てほしいんでしょ。自分が切るところを見てほしいんじゃないの?」

昼食時、自分がじわじわと軽い鬱になっていくのを感じた。実は、外に出る練習として、1週間に1回は外出することにしようと思い、今日の午後から「駅前へ買い物」という目的で外出する届けを出していたのだ。昼飯を食べて、ちょっと一服してからでかけよう、そう思ってたのだが、「これから外出か」と思ったら、急に気が滅入ってきた。腹まで痛くなってきた。今は何とかその小康状態を保ちつつ、これを書きながら、不調を我慢して外出するべきか、無理しないで休むべきか悩んでいる。とりあえず、しばらく休んでから、調子がよくなれば外出することにしよう。

結局1時間ちょっと休んでから、大丈夫そうだったので、外出した。バスで駅まで行き、ドラッグストア、スーパー、衣料品店、100円ショップ、本屋を1時間強かけてまわった。今回はそんなに疲れはしなかったが、なぜかずっと汗をかいていた。暑いからではなく、冷や汗だ。どうしてもリラックスした状態にはなれない。病棟に帰るまで冷や汗は続いていた。最近疲れがあとから出てくる。今はまだ大丈夫だが、これから出てくるかもしれない。ちなみに買ったものは…、と羅列しようと思ったが、めんどくさいので省略。そろそろ早朝や晩は半袖だと肌寒くなってきたので、衣料品店ではカーディガンを買った。カーディガンくらい家に帰れば10枚でも20枚でもあるが、「家に帰る」という行為自体が、ここからは電車を乗り継いで1時間以上かけて行かないといけないので、まだ自分には無理だ。ちなみにこの段落には多少誇張した表現があることを追記しておく。

外出からの帰りのバスでA君にあった。「どこ行ってたの」「職安っすよ」「職安行ってるってことは、もう退院のめどがついてるんだ」「うん、もう退院っすね」彼が言うには、もう精神的には安定しているが、体力、それも持久力がないのが心配だという。一見スポーツマンっぽく見える彼だが、入院する前、半年間は一歩も家から外に出なかったという。今のこの病院での生活は「ぬるま湯」のようであり、少し何かやって、疲れたら休めばいいや、で済むが、社会に戻ると、なかなかそうはいかないのが現実だ。私も社会復帰するときには持久力も充分養ってからでないと危険かもしれない。

どうやら先日退院したA爺さんの入院歴は25年だったそうだ。ここにいる新米のI看護婦が産まれる前からここにいたことになる。四半世紀を過ごした病棟を去るとき、彼はどんな気持ちであったのだろう。

夕食を告げる放送が入り、私が廊下へ出ていくと、みんながざわめいている。S君が私に言う。「Mちゃん退院だって!!!」「えっ、いつ?」「今から、夕御飯食べたら行っちゃうんだって」さらにS君は言う。「他の病院に転院するんだって」なになになになになんだなんだなんだなんだなんでなんでなんでなんで。前から決まっていて本人は黙っていたのか?でも、ついこの間まで「いつになったら退院できるんだろう」と本人は言っていた。しかも、転院ということは、「退院可能なほど病気が回復した」わけではない。何らかの事情で「この病院で入院生活を続けるのは好ましくない」との判断があったはずだ。医者の判断なのか、本人の判断なのか、あるいは家族の判断なのか。それはわからない。今朝、病院内での恋愛沙汰がどうのこうのと書いたが、それに対して病院側が措置を取ったにしては早すぎる。本人には昨日あるいは数日前に告げられて、最後に少しだけ「恋愛ごっこ」をしてみたかっただけかもしれない。本人は「みんな、好きだったよ。ありがとう」としか言わない。真相は誰も知らない。

S君がみんなを集めている。「お別れ会やろうよ」だが急な話なので、たいしたことはできない。色紙もないので、ノートにみんな一言ずつメッセージを書いていく。みんな持ち寄ったお菓子を広げる。「最後に何かやってあげてよ」そう頼まれたので、看護婦さんにオカリナを吹いていいか尋ねたが、病棟内では休んでいる人もいるため、気持ちはわかるけどダメだと言う。オカリナがだめなので、小さな声で「今日の日はさようなら」を歌った。そう「今日の日は」「さようなら」だ。「また会う日まで」またきっと会えるよね。途中からみんな加わって一緒に歌う。みんな口数は少ない。何をどう言っていいかわからない。一番とまどっているのは本人だ。どうやら今日の昼に突然医者から言われたらしい。家族が迎えに来て、1時間くらい医者と面談をし、その後彼女も呼ばれて今でも三者面談をやっている。

20:00になった。7錠の眠剤を飲んで、就寝準備。今日は疲れた。決して調子は悪くなかったのだが、やはり外出して疲れたのと、帰ってきていきなりのニュースである。なんだかんだ言って私も彼女のことをだいぶ気にかけていたので、いきなり去っていくという事実にショックを隠しきれない。どうか転院先でリスカをやらないでほしい。一日も早くよくなってほしいと願っている。